注意欠如・多動症(ADHD)

注意欠如・多動症(ADHD)とは

注意欠如・多動症(ADHD)は、年齢に見合わない「不注意」「多動性」「衝動性」を特徴とする発達障害の一つです。

生まれつきの脳の特性によるもので、しつけや育て方の影響ではありません。子どもの約5%にみられ、症状は大人になっても続く場合があります。

ADHDの子どもは、集中が続かない、忘れ物が多い、順番を待つのが苦手、じっとしていられないなどの特徴を持つことが多く、学校や家庭で困りごとを感じることがあります。しかし、適切なサポートを受けることで、本人の特性を活かしながら成長することができます。

ADHDの原因

ADHDの明確な原因はまだ完全には解明されていませんが、脳の働きや神経伝達物質(ドーパミン、ノルアドレナリン)の関わりが指摘されています。

ADHDの症状

ADHDの症状は、大きく3つに分けられます。

①不注意(集中が続かない)

  • 授業や話を最後まで聞かずに、気が散ってしまう
  • 忘れ物やなくし物が多い
  • 課題や宿題を途中でやめてしまう、なかなか始められない
  • 細かいミスやうっかりミスが多い

②多動性(落ち着きがない)

  • 授業中に席を離れて立ち歩く、じっとしていられない
  • 手足をもぞもぞ動かしたり、椅子の上でそわそわしたりする
  • おしゃべりが止まらない、しゃべりすぎてしまう

③衝動性(考える前に行動してしまう)

  • 順番を待てずに割り込んでしまう
  • 思ったことをすぐに口に出してしまう、さえぎって話す
  • 感情のコントロールが苦手で、突然怒ったり泣いたりする

※ すべてのお子さんがこれら3つの症状を同じように持つわけではありません。不注意が目立つタイプ、多動や衝動が目立つタイプ、これらが混合しているタイプなど、個人差があります。

ADHDの治療方法とサポート

ADHDの治療は、子どもの特性を理解し、環境を整え、適切な対応をすることが大切です。

①環境調整(生活習慣の工夫)

  • 整理整頓がしやすい環境をつくる:持ち物の定位置を決めるなど。
  • やるべきことを視覚化:To-Doリストや絵カードなどを使い、分かりやすく提示する。
  • 集中しやすい工夫:短時間の集中をくり返す(タイマーを使うなど)。
  • ルールを明確に:学校や家庭でのルールを分かりやすく決め、一貫して伝える。

②行動療法(トレーニング)

  • 成功体験を増やす:「できたこと」を積極的に褒めることで、自己肯定感を育みます。
  • 落ち着く方法を学ぶ:呼吸法やリラックス方法を練習し、衝動的な行動を抑える訓練をします。
  • ソーシャルスキルトレーニング(SST):人との適切な関わり方を学ぶ練習をします。

薬物療法(必要に応じて)

医師の判断により、薬物療法が検討されることがあります。

  • 中枢神経刺激薬(「コンサータ®」や「ビバンセ®」など)

どんな薬?

脳の元気スイッチのような部分に働きかけ、集中力を高めたり、落ち着きがない行動を抑えたりするのを助けます。比較的早く効果が出やすい薬です。

注意点

飲むと食欲が少し減ったり、寝つきが悪くなったりすることがあります。頭が痛くなったり、ドキドキしたりする場合もあります。この種類のお薬は、お医者さんの指示のもとで、とても厳しく管理されています。

  • 非刺激薬(「ストラテラ®」や「インチュニブ®」など)

どんな薬?

刺激薬とは少し違う働き方で、脳の中の情報を伝える物質を整えて、集中力や落ち着きをサポートします。効果が出るまでに少し時間がかかることがありますが、ゆっくり効いて長く症状を和らげてくれます。

注意点

飲み始めに、少し眠くなったり、だるさを感じたり、吐き気や胃の不調が出ることもあります。

  • 漢方薬

ADHDの症状緩和や体調の整えを目的に補助的に使われることがあります。

  • 抑肝散(よくかんさん): イライラや衝動性の緩和、睡眠改善を目的に使われることがある。
  • 抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ): 抑肝散に胃腸症状への作用を加えた処方。
  • 甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう): 不安や夜泣き、神経過敏の緩和に用いられることがある。

薬物療法は、ADHDのお子さんが生活上の困難を減らし、本来持っている能力を発揮できるようにするための有効な選択肢の一つです。しかし、薬だけで全てが解決するわけではなく、環境調整や行動療法と組み合わせて行うことが最も効果的とされています。

栄養療法は、ADHD症状を和らげる補助的な方法として注目されています。
詳しくは「栄養療法」のページでご確認ください。

ADHDの子どもへの接し方

  • 「できない」ではなく「苦手」と理解する
  • 叱るのではなく、できたことを褒める
  • 指示は短く、具体的に伝える
    (例)「早くしなさい」ではなく「ランドセルを開けてノートを出そう」
  • ルールを決めてわかりやすく伝える

ADHDのお子さんは、創造力が豊かで独自の発想を持っていることも多く、適切なサポートがあれば得意な分野で大きな力を発揮できます。本人の個性と強みを理解し、それを伸ばせるような環境を整えることが、何よりも大切です。